【第10話】 ナオコとハナコとケザコ

 私の家内は看護師ですが、当院の職員のまとめ役としても大活躍してくれています。まさに大番頭です。

 二人の出会いは、済生会中津病院時代にさかのぼります。当時から口論が絶えませんでした。「大病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科の部長として、手術件数の多さや関西では誰もしたことがない喉頭癌の手術術式に成功して有頂天になっているかも知れないけれど、単なる医師と私が思う『お医者さま』とは違うの。患者さんのことを親身に思って、医療に携わる人だけが『お医者さま』と呼ばれるに値すると思う。論文や学会発表の数が自慢かも知れないけれど、後輩に任せっぱなしでめったに病床を訪れないあなたのような医者より、1日に何回も病室に顔を出してくれる医者の方がどんなに患者さんは嬉しいかわからない。」最初はこの言葉に反発した私でしたが、徐々に患者さん想いの医師になれるように努力を始めることにしました。

 毎日朝一番に自ら患者さんを訪床することを徹底すると、患者さんのなかにはベッドで正座して待っている人も現れ、大いに歓迎されていることを実感出来ました。「大阪医科大学消化器外科教室(岡島教授時代)では1日に最低3度、病室を訪床することを最初に徹底して教え込まれる」と千福貞博先生からもお話を頂戴しました。素晴らしい教えだと悟りました。

 どういう因果か運命か、現在は頭頸部外科医ではなく、耳鼻科咽喉科医として開業している私ですが、「病気ではなく病人を診る」という漢方の教えを守ることで、『お医者さま』と呼ぶに値する医師像に少し近づけたような気がします。西洋医が不定愁訴と片づけたくなるような訴えにも積極的に耳を傾けるようになりました。その結果、他医が匙を投げためまいや耳鳴も治すことが出来るようになりました。他の耳鼻咽喉科に長期間通っても治る気配のない中耳炎や鼻炎であっても、体質改善を目指すことで治癒の方向に向けることも出来るようになりました。さらに、峯師匠は「患者さんを愛すること」が大切だと教えて下さいました。

 今、医師としての私の意気込みは従来の治療法に漢方を取り入れて「患者をより良く治すという天職を全うする」ことです。全てにおいて尊敬できる師匠に巡り逢えたことは本当に心強い支えです。

 少し話が脱線しましたが、日頃の感謝を込めて、春分の日に家内をランチに連れ出しました。

祇園の花見小路を抜けて

趣のある狭い路地を楽しみつつ

 

2007年ハナコウエスト・グランプリ店のケザコに到着。

調理師を目指したこともある料理好きの家内が喜びそうなオープンキッチンのカウンター席に陣取り、オーナーシェフのパンテル・ステファン氏と直接お話ししてのワイン選びです。

トキコクリニックの淀屋橋分院の木村真聡院長のように料理の内容のご紹介がうまくできませんが(木村真聡先生のブログ「美と食」)、素材に奈良漬を使っていたりして驚きの連続で、お魚料理もお肉料理もとても美味しかったです。

デザートのプレートを持って記念撮影しました。

 

 お食事中、見えない所で、ステファン氏とこの給仕係の女性がしばしば激しくフランス語で口論しているのを耳撃しました。やはり御夫婦でした。「夫婦で一緒に働くと、よく喧嘩しますよね」と大いに盛り上がりました。
 ハナコに載っていたケザコに大満足のナオコさん、さらに帰り道、お漬物をいっぱい買ったりして、笑顔満面で家路につきました。