【第18話】 ハイブリッド治療

  9月6日、大阪医大の第一講堂で開催された歴史ある漢方研究会(第27回)で口演して来ました。

2007年の9月のこの研究会では、「どれみ耳鼻咽喉科における耳鳴・めまいの治療」と題してお話したのですが、今回は「いまなか耳鼻咽喉科」を独立・開院したことのお知らせも兼ねて、演題名を「当院におけるハイブリッド治療」としました。

私の考えているハイブリッド治療とは、「西洋医学の診断学、進歩した検査・画像機器を利用しつつ、東洋医学的な考え方や診察法を実践する姿勢を持ち、各々から導き出される治療法の良いところを統合する」というものです。補完的に漢方薬も使ってみるという曖昧なものではなく、漢方薬はやはり東洋医学的な根拠に基づいて処方しないといけません。西洋薬と漢方薬の併用による相乗効果を追求したり、時には西洋薬による弊害を避けて漢方薬を主体にしたりします。

ハイブリッド治療の具体例を挙げてみます。

【図1】

図1の上段は、滲出性中耳炎で他院に2年間通っている8歳のA君です。

一番左の写真のように、右耳の中耳腔には滲出液がたまっていました。左耳は大丈夫です。鼻咽腔ファイバーで観察したところ、鼻漏もなく、アデノイドも大きくないため、一番右の写真のように、鼓膜切開術を施行したところ、あっさり治りました。

すると、A君に紹介されて、お友達のB君も来院しました。図1の下段のようにB君の鼓膜は一見、正常なのですが、聴力検査では右耳の軽度伝音難聴があり、チンパノメトリーでは右鼓膜が少し凹んでいることがわかりました。同じく鼻咽腔ファイバーで観察したところ、アデノイドが年齢のわりに大きいことが判明しました。アデノイドが耳管開口部を閉鎖して、中耳腔への換気を妨げているのです。難治例に対して西洋医学的には「アデノイド切除」とか「鼓膜チューブ挿入」とか手術療法を優先しがちですが、実は「荊芥連翹湯」などのように腺病体質(リンパ組織が過剰に働いてしまう状態)を改善する漢方薬を服用すれば、アデノイドの腫大が軽減し、手術を回避することが出来ます。この場合、荊芥連翹湯には即効性がないので、炎症性浮腫を素早くとる「越婢加朮湯」や粘稠性の鼻漏を抑える「辛夷清肺湯」などを一次的に併用するのがコツです。B君には、「数ヶ月かかるけれど、滲出性中耳炎がいつまでも治らない今の状態から漢方治療で脱却できますよ」とお話しました。

【図2】

 西洋医学で治療に難渋するものに、「のどの異常感」があります。喉頭ファイバーや頸部エコーで検査して異常がないと、逆流性食道炎のせいにして、パリエットやタケプロンなどPPI製剤を処方する先生もいます。患者さんは胸焼けを訴えていないにも関わらずです。一方、東洋医学的には「気鬱」と捉えて、「半夏厚朴湯」を処方することが多いです。実際、こちらの方がよく効きます。喉頭ファイバーでみると、実は舌根部がむくんでいることが多いのです。半夏厚朴湯には気の流れをよくする成分だけでなく、むくみをとる成分も含まれています。

さて、図2の上段のC氏。喉頭ファイバーで観察すると、舌根扁桃と喉頭に炎症所見があります。半夏厚朴湯ではなく「小柴胡湯加桔梗石膏」で劇的に良くなりました。

図2の下段のDさんの場合は発赤などの炎症所見がなく、舌根扁桃が著明に腫大していることがわかります。扁桃はリンパ組織です。そうです。「荊芥連翹湯」を処方しました。このように、西洋医学的な診断機器で得た情報をうまく東洋医学的な考えに結びつけ、処方するとうまくいくというわけです。

 懇親会が、大阪医大の職員・学生食堂でありました。「今中君の話はまるで教育講演のようだったなあ。話したいことがいっぱいあり過ぎやな(笑)」と話しかけて下さった大御所の大阪医科大学健康科学 クリニック・後山尚久先生(中央)と一緒に写りました。

大阪医科大学健康科学クリニックでご活躍の後山先生の外来はなかなか予約がとれないことで有名です。漢方に卓越した佐々木一郎先生(隈病院から独立)にも「当院のハイブリッド治療」を褒めてもらいました。

もう一枚は、空手部の後輩の有島武志先生と辻本直之先生と一緒です。有島先生は、私を師匠の峯先生に紹介してくれた恩人です。その御礼も兼ねて、2次会のプースカフェ(高槻市城北町にある話題のおしゃれなお店)をご馳走させて頂きました。