【第74話】 当院の耳鳴の治療成績

 今年の日本東洋医学会学術総会は6月27日(金)~29日(日)、東京国際フォーラムという大きな会場で開催されました。私は、当院の耳鳴の治療成績について発表しました。漢方薬を耳鳴に病名投与するのではなく、望診・問診・腹診など漢方独特の診察法を行ない、随証的に漢方エキス製剤を運用して来たこの2年間分の治療成績です。
東京国際フォーラムアートの復権

漢方の世界でも、耳鳴は難治であり、「滋腎通耳湯が奏功した耳鳴の3症例」といった演題が多く、施設全体の治療成績を公表する私のスタイルは稀有なため、大変注目を集めました。
また、インターネット広告では「○○○で耳鳴りが治った!」などというタイトルはよく見かけますが、どれだけの患者さんを対象にして、どの程度治ったのか、よくわからないものがほとんどです。
私は正直にお伝えしようと思います。

対象は耳鳴を主訴に当院を受診された222名、男性88名(年齢:20歳~90歳 平均63歳)女性134名(年齢:21歳~89歳 平均62歳)です。耳鳴に対する効果判定は患者の自己評価に基づき、治療前の耳鳴の音量と気になり方を10とした時、治療によりそれぞれどうなったかを点数評価(10点法)し、その平均点が、1.0点未満を著効、1.1~5.0点を有効、5.1~8.0点をやや有効、8.1~10.0点を不変、10.1点以上を悪化としました。
処方したエキス方剤は38種類、組み合わせは77通りとなりました。2剤併用例が多く、単剤のみの処方は38名(17%)、3剤の併用は8名(3.6%)でした。治療成績は、著効34名(15.3%)、有効92名(41.4%)、やや有効76名(34.2%)、不変20名(9.1%)悪化0名でした。
従って、有効率は56.7%、改善率は90.9%となりました。

スライド1

スライド2

有効以上、すなわち耳鳴が半分以下になった人が56.7%であり、10が6~8になったという人をやや有効とし、やや有効以上を改善とすると90.9%だったというわけです。9割もの方に効果を実感して頂いているのは嬉しいことで、過去の漢方薬による治療成績の中でも最良なのですが、著効と有効の割合をもう少し増やすことができないものかともどかしく思っています。まだまだ精進が足らないと反省しております。

難聴の診断名と有効率および改善率を示します。低音障害型の成績が良好でした。
突発性難聴後の耳鳴は治療が難しいとされていますが、16例中、有効率が50%でした。
感音難聴、メニエール病、高音漸減型の難聴においても、50%程度の有効率となっています。詳しくは、下のスライドをご参照ください。他には、部位別、年齢、罹病期間、周波数別、音量別にも成績を検討しましたが、ここでは誌面の都合上、割愛します。

スライド3

実は、会場で「素晴らしい成績です」と有名な新井基洋先生(『めまいは寝てては治らない』の著者としてマスコミ出演多数)にも絶賛して頂いたのですが、皆様へのご報告がなんと2ヶ月も遅くなりました。春からの外来診療の多忙さに加えて、依頼原稿を抱え過ぎていたのです。現在、当院は比較的空いており、他院で見捨てられたような耳鳴患者さんともじっくり向き合える状態です。もし、よろしければご来院下さい。ただ、私は名人ではないので、いきなり、「あなたにはこれです!間違いありません!」などと長期処方する勇気はありません。ですので、あまり遠方からのご来院はご遠慮下さい。
通える範囲でお願い致します。