【第60話】 サヨナライツカ

当院のオープンに際して、最初の正職員採用のための面接の時、彼女が市川海老蔵ばりの鋭い眼力で私を驚かせてくれたお話はブログでも何度かしてきました。実は私の頭の中では、Kさんが最有力で、続いて、Aさん、Oさん。家内が「この子は、キャリアはないけれど、感じるものがあるから」と言うので、履歴書の写真の印象もいまいちでしたが、追加で面接リストにねじ込んだのです。当日は「私には5年間、培ってきた接客力があります。覆面調査で満点をもらい、表彰されたこともあるんです」とのアピールでした。とにかく、結局そのすごい眼力に圧倒され、即・採用決定となりました。後で本人に尋ねたところ、「あの時はめっちゃ採用されたい気持ちが強くて」ということでした。

いざ採用してみると、その後、意外にもあの歌舞伎役者のような眼光をもう一度観ることは一切ありませんでした。しかし、診察室で見せてくれるコンピュータ入力の能力の高さには目を見張るものがありました。インストラクターの加藤さんも驚いていましたが、とにかく飲み込みが速いのです。家内はその資質を見抜いていたと言います。そして、私を一番喜ばせてくれたのは、彼女の元気さです。外来が長びいて、まわりのスタッフや肝心の私でさえ、へたって来ても、彼女にはそれがありませんでした。「疲れたと言うと、余計疲れますから」って言いながら、ニコッとするのです。すごく元気をもらいました。

だから、まさか一番元気で頼りになる彼女が辞める日が来るなんて、それもこんなにも早く来るなんて・・・
私は動揺を隠せません。朝9時から夜9時まで、連日連夜、一緒に頑張って来た仲間です。オープン当初は本当にてんてこ舞いで、お互い夢の中でも診察は続いていて、朝イチ、「昨夜からずっと(仕事が)つながってる感じだよね」って笑い泣きしました。やがて余裕も生まれてきて、単に外見が可愛いだけじゃなくて、泣きそうだけれど必死で頑張っている子、憎めない子、憎たらしい子、愛嬌のある子、もう逃げ出したくて仕方ない子、
どの子もそれぞれめっちゃ可愛くて魅力的であることに気づけるようになったはずです。いろんな患者さんに、愛着(?)が湧いてきたはずです。やりたくて仕方なかった医療に関わる仕事はやってみると充実感があり、
本当に楽しかったはずです。

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そして、いつもお昼休みは、他の常勤スタッフと控え室で家族のように、いや親友のようにわき合いあい。
「腹へ~」と叫びながら、お弁当を温めて、一緒にこたつで頬張り、昼ドラを観てはしゃぎ、「腹ぱ~ん」と言ってゴロリ。「虫が出たぁ!」と叫び声をあげ、「コロちゃ~ん」と大声で呼ぶ。控え室には、いつも笑い声が溢れていました。いつもとても楽しそう。「こうしていつまでもいつまでも仲良く暮らしましたとさ」ってなる感じでした。しかし、私は油断していました。容姿端麗でもある彼女を狙っている者が他にいてもおかしくはないのです。そういうわけで、彼女は12月末で結婚退職することになりました。

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もう、こんな風に素敵な個室フレンチで お誕生日のお祝い をすることもないでしょう。

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だけど、一緒に働いた仲間のことをいつまでも忘れないで下さいね。
特に、井原さんはあなたのもう一人のお姉さんですものね。本当に良い姉妹でした・・・

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私は、院長である私が、私なりにいつも一生懸命に患者さんを診ていた姿を忘れずにいて欲しいなと思っています。とにかくみんなで一丸となって、患者さんのことを考えて、朝から晩まで精いっぱい頑張っていました。
この頑張りはあなたの明日にも必ずつながると信じています。ご結婚、おめでとうございます。人一倍、幸せになって下さいね。市川海老蔵にそっくりな男前のお子さんが産まれる日を心待ちにしています。
そして、いつでも気軽に遊びに来て下さいね。さようなら、お元気で。

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