今や、国民の5人に1人と言われるスギ・ヒノキ花粉症。大気汚染の影響もあって、毎年重症化する方も少なくありません。当院では、比較的眠気の少ない第2世代の抗ヒスタミン薬(アレグラやタリオンなど)やステロイド点鼻薬や点眼薬を処方しないわけではないのですが、案外知られていない『一切、眠くならない』『体に優しい』『飲むとすぐに効く』という『漢方薬による花粉症治療』を提案しております。
花粉症には5月~初夏のイネ科(カモガヤなど)や秋のキク科(ブタクサなど)によるものもありますが、やはり春にお困りの方が多いようです。そこで今回は春の花粉症に焦点を置いて質疑応答形式でお伝えしたいと思います。
質問1:長く飲まないと効かない漢方薬でしょ?私の鼻水ジュルジュルを今すぐ止めることもできますか?
回答1:私がよく処方する「虎龍湯」を服用して下さい。10分以内に鼻水も鼻づまりも楽になります。漢方薬は元来、急性感染症に対応するために考案されたものであり、驚くべき即効性を持っています。第2世代の抗ヒスタミン薬でも効果を得るのに30分以上かかりますから、麻黄剤(生薬の麻黄を含む)の即効性は相当なものです。花粉症シーズン前から予防的に服用する必要もありません。症状が出て来てからでも十分、間に合います。
質問2:よく効くとお伺いすると眠気が心配です。漢方薬は眠気がありませんか?
回答2:眠気は全くありません。麻黄剤にはコーヒーを飲んだ時のような覚醒作用があり、体も元気になります。かといって、不眠症になることもありません(笑)。
質問3:友人が「花粉症シーズン前に注射をうつと楽だ」と言っています。大丈夫でしょうか?
回答3:徐放型ステロイド製剤(ケナコルトなど)を筋肉に注射する方法ですね。安易に使用することは大変危険です。自身の副腎機能低下は避けられず、感染症に罹りやすくなったり、骨の生成障害が懸念されます。既存の胃潰瘍や糖尿病が悪化することは言うまでもありません。全身的副作用に注意し、投与前後に副腎皮質ホルモンの検査を怠るべきではありません。『鼻アレルギー治療ガイドライン』には「満月様顔貌、皮膚障害、月経異常などが時に起こるため、望ましくない治療法である」と糾弾されています。
西洋薬による薬物治療で効果が不十分であったため、あるいは眠気にお困りだったため、この治療法に走られてしまったのだと思います。炎症制御に優れた漢方薬を服用することによって、ステロイド薬に頼る必要はなくなります。ご友人に教えてあげて下さい。
質問4:漢方薬の小青竜湯を薬局で勧められて購入しました。あまり効きません。どうしてですか?
回答4:小青竜湯はもともと「うすい鼻水が出るタイプの感冒(かぜ)」に有用で、ダニやハウスダストに対する通年性アレルギー性鼻炎の臨床治験においても優れた成績を示したお薬です。しかし、私が2007年にスギ花粉症に対する小青竜湯の治療成績を検討したところ、その有効率は45%でした。これは花粉症が風邪(ふうじゃ)と熱邪の両面の性質を持つからです。炎症を生じて、発赤した鼻粘膜や眼球結膜を清熱する方剤が必要となります。麻黄と石膏が配合された五虎湯を併用することで治療成績は有効率87%と飛躍的に向上しました。
五虎湯と小青竜湯の同時併用、これが私の命名した「虎龍湯」の正体です。錠剤での服用も可能です。咳が出るような激しい花粉症状にも対応出来ます。他には越婢加朮湯、五虎湯合川芎茶調散など清熱に配慮した方剤を勧めています。
一方、元来冷え症で、麻黄附子細辛湯など体を温める性質のお薬がよく効く方もいらっしゃいます。
質問5:胃腸が大変弱いのです。虎龍湯を飲んでも大丈夫でしょうか?
回答5:虎龍湯は強力な麻黄剤であり、残念ながらお勧めすることはできません。麻黄剤は胃腸の弱い方や狭心症などの心疾患を有する方と尿閉が起こりやすい方には不向きなのです。胃もたれタイプの方でしたら、六君子湯合麻黄附子細辛湯や苓甘姜味辛夏仁湯がお勧めです。これに眠気の心配の少ないタリオンやアレグラといった第2世代の抗ヒスタミン薬を支障(口渇など)のない限り併用して頂いています。よく口内炎ができるタイプの方は清熱作用のある黄芩・黄連が配合され鼻閉にも効果のある半夏瀉心湯がお勧めです。
質問6:冷え症体質です。虎龍湯を飲んでも大丈夫でしょうか?
回答6:大丈夫です。体全体は冷え症でも、局所が熱証の場合は少なくありません。速やかに症状を抑えるためには虎龍湯などの麻黄剤が有用です。しかし、次年度からは冬季に漢方薬によって冷え症対策をすることによって花粉症症状の軽減や発現の予防が可能です。
質問7:漢方薬って、値段が高価ではありませんか?
回答7:当院では、保険適応のエキス製剤を用いています。例えば虎龍湯の一日薬価は約200円程度で、3割負担の方ですと、約60円となります。一ヶ月服用しても1800円ですね。決して高価なものではありません。
効果に優れ、副作用も少なく、QOLの面から考えても、花粉症に対する良い治療薬だと考えています。
質問8:現在、妊娠6ヶ月です。花粉症で大変苦しんでいます。助けてください。
回答8:西洋薬として頻用される抗ヒスタミン薬には催奇形性が報告されており、妊娠中の使用を避けなければいけません。その点、漢方薬は安心です。しかし、胎児の臓器形成時期である15週まではなるべく全ての内服薬を避けたいものです。ただし、安胎薬として知られる当帰芍薬散は妊娠中のどの時期にも安心して飲める漢方薬であり、鼻粘膜の水腫れを軽減する作用があるため、お勧めしています。
質問9:花粉症時期は顔まで痒くて仕方ありません。どうにかできませんか?
回答9:清熱作用のある漢方薬が適しています。特にニキビに対して適応のある清上防風湯が大変よく効きます。また、目玉を取り出して一度洗いたいような衝動に駆られるほどの眼症状には黄連解毒湯が有効です。
質問10:こんなに素晴らしい「漢方薬による花粉症治療」の成果をどうして今までインターネットで公開しなかったのですか?
回答10:この時期、ただでさえどの耳鼻咽喉科も混み合います。花粉症の炎症を速やかに制御し、副作用の心配がない当院の漢方薬による治療の優秀さは他の追随を許さないものと思っています。昨年もご好評を頂いているという確かな手応えがありました。しかし、これ以上外来が混み合うのもどうかと逃げ腰になってしまっていたのです(笑)。「忙しくて大変かも知れないけれど、やっぱり困っている患者さんのために公開しなくちゃね」と、漢方仲間のさかざき先生に諭され、ついに公開してしまいました。当院はこの時期は大変混み合います。初診の方でも予約できますので、ホームページに掲載している問診表をあらかじめご記入の上、予約をしてからご来院ください。
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