【第32話】 インフルエンザ

最近流行の兆しをみせるインフルエンザ(現在のところ、今年はA香港型が多い)。
漢方薬をその治療に使うことの意義やいかに? わかりやすくお伝えするために質疑応答形式でお届けします。

 

質問1:タミフルやリレンザやイナビルなどの抗ウイルス薬と比べて漢方薬の麻黄湯は症状を緩和する程度のお薬だと聞きました。いかがですか?

回答1:麻黄湯は抗ウイルス作用も証明されている立派な治療薬(勿論、保険適応)です。しかも抗ウイルス薬と作用機序が異なっており、タミフル耐性インフルエンザにも有効です。抗ウイルス薬は体内のウイルス量を減らすことは出来ますが、すでに生じた頭痛や節々の痛みなど随伴症状をとる作用は持っていないため、解熱鎮痛剤に頼らざるを得ません。漢方薬はそれらの症状を速やかに緩和してくれるうえに、免疫賦活作用も有しており、優れた治療薬といえます。

 

質問2:高熱が続き、心配です。座薬などの解熱剤を使っても良いですか?

回答2:人間の体はよく出来ていて、免疫力を賦活させるために体温を上昇させるのです。解熱剤によって強制的に解熱することは逆効果になります。また、体温が低い方がウイルスは増殖しやすいのです。
スペイン風邪の時に体を冷やして熱をとろうとした方がことごとく重症化したという報告があります。
安易に解熱してはいけません。漢方薬で免疫力を賦活し、発汗もしくは排尿によって解熱に至ることで、理想的な速やかな治癒を得ることができます。座薬を使うと したら、39.5度~40度の高熱でうわごとをいうような時に使うと良いでしょう。

 

質問3:タミフルと麻黄湯を併用すれば完璧ですか?

回答3:そうですね。タミフルのみだと、たまたまタミフル耐性インフルエンザだった場合、何も治療していないことになってしまいます。タミフル単独群と麻黄湯単独群とそれらの併用群とで、解熱に至るまでを比較した論文があり、結果は驚いたことに麻黄湯単独群が最も速やかな解熱を得ており、タミフル単 独群とは有意差まで出ました。併用すれば良いというものではないようです。
ただ、当院では抗ウイルス薬を処方されないことに対する患者さんの不安も考慮しイナビルとの併用を推奨しています。

 

質問4:「インフルエンザ患者が来たら、タミフルやリレンザと同じように、麻黄湯を5日分処方しておけば良い」で良いですか?(開業内科医より)

回答4:麻黄湯はインフルエンザの初期に用いる薬のひとつでしかありません。せいぜい最初の二日間でその役割を終えます。その後は柴胡桂枝湯などの柴胡剤 の出番となります。
のどの痛みが続く場合は、小柴胡湯加桔梗石膏、食欲不振がある場合は柴胡桂枝湯といった選択をします。

また、初期でも胃腸症状を伴うも のは葛根湯、脈が沈んでいるものは麻黄附子細辛湯を選択します。インフルエンザに対して何でもかんでも麻黄湯というのではあまりに芸のない処方です。保険 適応の範囲でさまざまなエキス製剤の使い分けが可能です。

 

質問5:乳幼児でも麻黄湯は服用できますか?

回答5:当院での服用率は100%です。1歳未満のお子さんでも飲むことができました。お湯に溶かして服用することが最も効果的ですが、できない場合は、ゼリーやアイスなどに混ぜて服用しても構いません。

 

質問6:一旦、解熱したのに、再び発熱しました。しかも激しい咳を伴います。肺炎を併発したのでしょうか?

回答6:インフルエンザでは、数日を経て再度発熱することが少なくありません。インフルエンザの病邪が体表から身体内部に進行するからです。従って、最初 は悪寒、頭痛、関節痛といった表証が現れるだけですが、後に肺で化熱して、発熱と咳症状をもたらようになるのです。この場合、清熱を目的に石膏が 含有された方剤を用います。五虎湯などです。マクロライド系抗生物質も併用します。膿性の痰が著しければ、二次感染としての細菌性肺炎を疑い、強力な抗生 物質投与も考慮します。五虎湯には柴胡桂枝湯や竹筎温胆湯といった柴胡剤と併用すると大変効果的です。
一方、西洋薬の鎮咳薬には清熱作用がないので、西洋薬による治療では咳が止まらず長引かせてしまうことが少なくありません。

 

質問7:私の場合、頭痛、関節痛などの一般的な症状の他に、胃痛と下痢を認めています。麻黄湯を服用しても良いですか?

回答7:病邪が大腸に及んでいます。この場合、麻黄湯だと胃腸が受けつけません。初期症状であれば、葛根湯もしくは葛根湯と半夏瀉心湯の併用が良いかと思います。
初期ではなく、数日を経て生じた胃腸症状には柴胡桂枝湯か重篤であれば真武湯と人参湯の併用で対処します。

 

質問8:顔がむくみ、めまいもします。脳炎でしょうか?

回答8:インフルエンザによって、水滞に陥ったのです。利水剤である苓桂朮甘湯を併用しましょう。
嘔気や嘔吐を認めるのであれば、五苓散が有効です。

 

質問9:インフルエンザの初期です。麻黄湯を服用しましたが解熱しません。なぜですか?

回答9:ひとつは服用法の誤りです。傷寒論という古典に、「解熱するまでは2時間おきに服用するように」という記載があり、それに従わないと十分な 効果が得られません。2、3回続けて服用した後、大量に発汗もしくは排尿して解熱する事が多いです。したがって、1日目に麻黄湯を4~6回服用すること も少なくありません。
一方、当初より寒気がないという熱状が強いタイプのものには、麻黄湯のように温性のものではなく、越婢加朮湯など石膏を含んだ涼性の方剤か、清熱作用のある板藍根、地竜、牛黄末など(いずれも保険適応外)を併用することが必要な場合もあります。

 

質問10:家族の一人がインフルエンザに罹患しました。家族内で流行させないための予防薬はありますか?

回答10:中国では板藍根の予防効果が注目されています。当院では、松浦漢方(株)のものをお勧めし、隣接するハーブ薬局やセガミ薬局(摂津富田) で購入して頂いています。自費扱いとなります。
なお、高齢者のいる施設では補中益気湯に予防効果があったとの報告があります。高齢者に限らず、体力に不安 のある場合は適していると思います。

 

質問11:寒気がなく、突然のどの痛みと熱感を来しました。麻黄湯が効きますか?

回答11:質問9でも説明しましたが、風寒ではなく、風熱タイプ(温病)です。2009年だけに流行した豚インフルエンザは5月という暖かい季節に 流行しました。冬に流行る従来のインフルエンザと比較して、風熱タイプがより多くみられました。
この場合、麻黄湯など傷寒のお薬は効きません。石膏などの 清熱作用をもった方剤(桔梗石膏や越婢加朮湯など)に、板藍根、地竜、牛黄末などを併用すると良いです。ちなみに地竜と牛黄末も自費扱いです。
当院では保険適応の葛根湯+桔梗石膏、もしくは葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏で様子をみて頂くこともあります。2009年のそれには十分効果的でした。

 

質問12:突然寒気がして、高熱を来しました。救急病院でインフルエンザの検査を受けましたが、陰性だったので解熱剤だけを処方されました。解熱剤を服用しても良いですか?

回答12:初期の頃にはウイルス量が乏しく、インフルエンザキットでの検査が陰性になることがあります。
脈が浮いていれば明日には再検査で陽性と判明する可能性が高いです。解熱剤で安易に解熱してはいけません。麻黄湯か葛根湯あたりで様子をみて下さい。

 

質問13:予防接種を受けていないせいか、症状が重篤です。どうしたら良いですか?

回答13:鳥インフルエンザでない通常のインフルエンザでは死亡に至ることは稀で、5日もすれば自然軽快することが一般的です。また、予防接種を受けていなくても、イナビルでウイルスの増殖する勢いをとめて、適切な漢方治療をすれば、重症化を防げるので心配はいりません。
ただ、ご自身の体力がもともと弱かったり、ウイルスの病邪が極端に強く、体内での化熱が速い場合は重篤化します。清熱作用と免疫力賦活作用を持った板藍根 や地竜を麻黄湯などと併用します。板藍根には抗ウイルス作用も報告されており、SARS騒動の際には品薄となったという逸話があります。牛黄末には清熱作用の他に、脳を保護する作用があります。高熱や頭痛が続く場合には脳炎や精神異常行動が懸念されますので、牛黄末を服用するように指示しています。

 

質問14:関節痛に麻黄湯が効くとの事ですが、代わりに葛根湯を服用するのは効果ありますか?

回答14:葛根湯は上半身、特に首から上の症状と腹部症状によく効きます。
関節痛には麻黄湯の方が効果が期待できます。
葛根湯でも効かないことはないと思いますが、当院ではオススメしません。

 

長々とお話して来ましたが、諸症状の速やかな緩和に漢方薬は不可欠です。私の患者さんは「インフルエンザなのに、こんなに軽く済んだのは初めてで す」とよくおっしゃられます。また重篤化を回避することに関しては、インフルエンザ脳炎から脳を守ること(牛黄末)や、衰弱死から逃れる(真武湯と人参湯 の併用など)ことも可能であり、漢方薬を用いることは大変有意義であると思います。もちろん、本当に脳炎で昏睡状態になったり、肺炎で呼吸困難になってし まったら、総合病院に入院して治療すべきであることは申すまでもありません。

漢方薬の知識のないお医者さんはこのブログを読んでしまった患者さんの対応に困るかも知れません。
また、当院をインフルエンザ疑いで受診される方は、あらかじめ電話、もしくは受付でその旨をおっしゃって下さい。マスクをお忘れの場合はお渡しします。
さらに一度陽性と判明した患者さんの再診は時間外に済ませ、正規の診察時間前には、3台の空気清浄器をフルパワーで稼働、抗ウイルス作用のあるクレベリン消毒液をシャワーのように撒いて、感染の波及を防ぎます。

 

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