【第29話】「今中院長は、名医なのでしょうか?」

  先日、守口市で一二三薬局を営む同級生の明石吉弘氏を訪問しました。「お~っ、大先生がわざわざ来てくれた」と歓待され、土井商店街の割烹居酒屋「花かるた」で、楽しくも熱く語り合いました。およそ15年ぶりの再会でした。彼は、このブログ第17話と第23話にコメントを入れてくれた地域に信頼の厚い熱血・薬剤師さんです。彼の馴染みのお店で、この冬はじめてのてっちりを安く、美味しく食べることが出来ました。

沢良木町にあるキュア鍼灸整骨院に行くと、そこでも私は名医扱いです。元横綱・曙から指名がかかるここの西川院長の方がよっぽど名医かも知れません。ちなみに、私は師匠の峯尚志先生や土方康世先生のように、漢方の名医を掲載するような書物には登場したことがないので、残念ながら名医ではありません。ただ、先日、私の処方した漢方薬で良くなった6歳の子供さんに、「なあ、先生、魔法使えるんやんな」と言われたのは嬉しかったです。また、オノンやキプレスなど「西洋薬をだらだら飲んでいた時と違って、ウチの子は確かに丈夫になりました」とアレルギー体質のお子さんのお母さんから嬉しいお言葉を頂くことがあります。平凡な医者なので褒められると嬉しいですし、けなされると悲しいです。私が診た時に大したことがなくても、後日悪化して、所見が顕在化すれば、後で診た医院の治療で良くなることも当然あります。「後医は名医」とのことわざもあるぐらいです。

また、漢方治療では「処方を回す」こともあります。「Aという処方で手応えを確かめ、自信を持ってBという処方で続ける。」あるいは、「Cという処方で、患者さんの状態にゆさぶりをかけて、D+Eという処方でぐっと治る方向に舵を取り、Fという処方で仕上げる。」といった具合いです。例えば、耳鳴りの方、そのCという処方が大柴胡湯などの瀉剤である場合、当の患者さんは多少なりとも下痢をすることになります。デトックスのようなものです。そして、小柴胡湯+五苓散という処方に変えて、最後は釣藤散で仕上げる。そうなんです。処方の効きを計算し、患者さんの変化を観察しつつ、臨機応変に対応しているのです。

当院のホームページには、耳鳴りやめまいに対する具体的な漢方薬の名前を載せていません。読んだお医者さんや患者さんが短絡的に漢方薬を選んでしまいがちだからです。西洋医学的な病名投与ではなく、東洋医学的な診察が必要だと私は考えています。前述したように、患者さんに合わせて、方剤を併用したり、変化させることすらあるのです。

さて、中医学の鉄人・安井廣迪先生から私への最高のクリスマスプレゼントが届きました。ブログ第20話でお話した「中医臨床」誌 (2012年12月 通巻131号) に、私が分担執筆をした耳鼻咽喉科疾患に対する漢方治療の原稿が掲載されたのです。さすがに手の内すべてをさらけ出したわけではありませんが、これまで得た知識と経験をかなり気前良く開放しました。ただ、Fさんを始めとする漢方に目覚めた患者さんや初学者の医師・薬剤師には難解な内容かも知れません。

このような原稿を書いたからと言って、メニエール病をすべて治せるわけではありませんが、イソバイドの副作用に閉口している患者さんをお救い出来ていることも事実です。この頃、治療については語っておりませんが、耳鳴り・めまい・難聴についてはブログ第3話で、花粉症についてはブログ第7話第8話で、風邪とインフルエンザについては第11話で、ハイブリッド治療については第6話第18話でお話しています。ご参考になさって下さい。

過去のブログ記事のお話になりました。実はブログ第12話にご登場頂いた高橋宏明名誉教授から、この夏、それはそれは嬉しい「開業祝いの色紙」が届きました。「治に居て、乱を忘れず」と書かれているわけですが、「つまり、安に居て危うきを忘れず、存すれども亡ぶるを忘れず、というこっちゃ」との解説のお手紙つきでした。院長室に飾り、毎朝毎晩拝んでおりますが、このたび、皆様にもご披露させて頂きます。