この度、伝統ある東亜医学協会の第25回東亜医学協会学術奨励賞を受賞致しました。これは、同協会が発刊している『漢方の臨床』誌(創刊・昭和29年)の令和2年4月~令和3年3月号に掲載された論文の中から選考されたものです。令和3年9月26日開催の第31回漢方治療研究会で表彰されました。第69回日本東洋医学会学術総会における口演を論文化したもので、皆さんにはその抄録を以下に転載し、内容を簡潔にお知らせしておこうと思います。

演題名 『小児の長引く中耳炎・鼻炎と黄耆建中湯』

通常(西洋医学的に治療していると)、小児の中耳炎の治療はしばしば長引いてしまう。急性中耳炎を反復罹患したり、滲出性中耳炎に移行し、慢性化するためだ。難治化の原因としては、中耳炎の主な起炎菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌の薬剤耐性化(これには抗生物質の濫用による医原的なものも少なくない)や集団保育の低年齢化、そして2歳未満の乳幼児の免疫能の未熟性などが挙げられている。このような場合、同時に長引く鼻炎・副鼻腔炎がみられることにも留意したい。これらが遷延することは肺気虚、すなわち呼吸器の機能の未発達によるものと考えられる。また、五臓論における補土生金の考えに基づき、脾を補う必要がある。現代医学的に言えば、消化管免疫を整え、全身の免疫能を高めるという考えに通じる。

演者は自らの治療体系に漢方薬を導入した平成18年から稲葉博司先生のご教授により、黄蓍建中湯を多用して来た。すでに耐性菌を獲得している場合や抗生物質によって下痢・軟便の副作用がみられる患児にも使いやすく、「守りを固める」という意識を明確に持って治療することが出来た。構成生薬の膠飴は滋養強壮や健胃作用があり、主要成分がマルトース(=オリゴ糖)であるため、腸内細菌の栄養となり腸内細菌叢の調整にも作用する。すなわち、プレバイオティクスの働きをする。そして黄耆建中湯は甘いシナモンティーのような味で大変飲みやすい。漢方薬の導入には最適な方剤でもあった。

黄耆には補気昇陽、固表止汗、托毒生肌、利水消腫の作用がある。多紀元簡著「薬性提要」に「表を固めて汗を止め、中を補いて元気を益し、膿を排して内托す」と表現された「托毒」なる排膿作用がある。西洋薬理学的には末梢血管拡張作用、抗アレルギー作用、腸管収縮作用、利尿作用、強壮作用、インターフェロン誘起作用、免疫賦活作用が報告されている。従って、小建中湯ではなく、黄耆が加味された黄耆建中湯を用いて来た。黄耆建中湯を辛抱強く1~3ヶ月服用させることにより、薬剤耐性菌の増加やモラクセラ・カタラーリスの間接的病原性にも対処できたので4症例を提示する。

なお、滲出性中耳炎の原因となっている中耳腔の陰圧は、鼻咽腔粘膜の炎症、鼻漏の貯留、アデノイドの腫大などによる耳管開口部の閉塞によって生じている場合も少なくないため、こちらを「攻める薬」(抗炎症作用に優れた麻黄剤や石膏剤など)との併用で対処する必要がある。一方、アレルギー性鼻炎を伴うものに、一時的に柴苓湯が必要なケースがある。さらに、膿性耳漏が長引く場合には、十全大補湯の優れた免疫調整作用が必要なケースもある。これらとの使い分けについても論じたい。

さて、黄蓍建中湯を数カ月投与すると、患者さんのお母さんからご褒美となるお言葉を頂けることは日常茶飯事である。外来をしているとこれが何よりも嬉しい。

「先生、おかげさまでうちの子は丈夫になりました。」

第25回東亜医学協会学術奨励賞を受賞致しました。

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